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麻酔・歯科麻酔学の歴史
麻酔の発見は医学史上の最大の発見といっても過言ではない。病の警告は痛みによって知ることができ、この痛みの克服と痛みからの開放が医学の最終目標であろう。〈麻酔の無かった時代の手術、それは医者にとっても患者にとっても、恐ろしい一刻であった。患者は恐れおののきながらこの日を迎え、手術室に入れられただけで失神する者も少なくなかった。彼らは死刑囚のごとくベットに緊縛され、口には猿轡を噛ませられた。周りには苦しみ暴れる患者を押さえるために、屈強な若者たちが控えていた。〉麻酔法の発見はルネッサンス期にはじまり、近代麻酔学の発達に物理化学の発達が後押しをし、19世紀以降に次々に新しい麻酔法が発見、開発されてきている。全身麻酔では、1840年代に笑気麻酔を利用したH.Wellsや、エーテル麻酔を発見したW.T.G.Mortonはいずれも歯科医であり、歯科領域がまさに先駆者デあることが特筆される。一方、局所麻酔の開発は40年ほど遅れ、1884年の眼科領域へのコカイン表面麻酔に始まりプロカイン(1904)、リドカイン(1943)の出現ご急速な進歩をみている。
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H.Wellsの功績 |
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G.Q.Coltonは化学講師と称して各地を巡業し、笑気ガスの講演実験会を催していた。1884年12月ハートフォートという田舎町で聴衆のうち数人を選んで、ステージで笑気ガスを吸わせた。たまたま、聴衆のなかに同地で開業していた29歳の歯科医師H.Wellsがいた。そのとき、吸入した若者の一人が興奮して酩酊状態で走りだし、片足の向こう脛をベンチに激しく打ちつけ、骨が折れたかと思われるような衝突であり、出血したにもかかわらず、当人はケロリとしていて、笑気ガスの効力が消えるまで打撲の痛みをまったく感じなかった。これを見ていたWellsは無痛抜歯の可能性に胸躍らせながら、Coltonに協力を求めた。
翌日、自ら患者となり、Coltonが笑気を吸入させ、友人の歯科医師J.M.Riggs(歯槽膿漏の命名者)が、Wellsの左側上顎智歯を抜去した。悲鳴もない静粛でたやすい抜歯手術であった。そのとき、「抜歯に新しい時代がきた」と叫んだといわれる。
その後、Wellsは.Riggsらと協力して15例の無痛治療に成功した。この方法を公開実験するために、1845年1月にハーバー大学において、J.C.Warrenのクラスで笑気ガス麻酔の公開実験を医師および医学生の前で行うが、あまりにも強壮な人を選んだことと、ガス嚢を早く離したために十分な麻酔が得られず、患者は悲鳴をあげ、見学者の物笑いとなってしまう。数年後に、ボストン医師会の席上で、ガス発生装置の不備のため再び実験は失敗した。その後、麻酔薬を自分自身が吸入し試用を続けているうちに健康を害し、精神異常から、婦人に硫酸をかけて刑務所生活を送っている。1848年1月24日、クロロホルムで自身を麻酔し、大腿動脈を切って自殺したことから笑気は顧みなくなり頓挫してしまう。
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W.T.G.Mortonによる世界初全身麻酔の成功 |
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W.T.G.Mortonは卒業後、4歳上のH.Wellsと共同経営者として診療をはじめる。
その後、彼と別れて、独立し、ハーバード大学医学部の聴講生となり、旺盛な知識欲を満たそうとした。Wellsの失敗の原因は亜酸化窒素自体にあると考え、もっと有効な吸入剤を選ぶべきだと自らに言い聞かせた。.Wellsに刺激されて、先輩の後を追うことになる。彼が着目したのは、もう一つのポピュラーなガス体、エーテルであった。1846年7月、充填治療中、齲歯の周囲歯肉に恐る恐る塩酸エーテル液を塗布し、その効果を試してみた。痛みはやわらいだが、やはり吸入でなければ抜歯手術には役立たないことを覚える。医学部で指導を受けていたC.T.Jacksonniに訪ねた。市販のものではなく、純粋なエーテルを使ってみてはどうか、と助言を受ける。1846年9月30日に歯痛に苦しむ急患が時間外に訪れ、催眠術で抜歯してくれるよう懇願した。もっと優れた無痛療法があると説いて了解された。タオルに硫黄エーテルを浸ませ、吸入させた。催眠状態に陥ってから、抜歯をした。患者は痛がりもせず暴れもせず、1分ほどして覚醒した。続いて、本格的な外科手術に応用しようととしていたところ、ハーバード大学のげか教授J.C.Warrenの主宰していたMassachusetts General Hospital(MGH)でこの臨床実験を行う幸運をつかむ。1846年10月16日、Warrenが執刀、Morton自身の考案によるエーテル吸入装置で患者のG.Abbott(20歳、男性)に、4分間エーテル麻酔を行ない、左側顎下部腫瘍の摘出術に成功を収めた。手術が終わったとき、Warrenは大声で叫んだ「諸君、これはペテンではない」と、こうしてエーテル麻酔の最初の臨床実験は成功したのである。
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資料出典:歯科麻酔学(医歯薬出版株式会社)、歯科医学史の顔(学建書院)より抜粋
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